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長野地方裁判所 昭和45年(行ウ)7号 判決 1977年10月13日

原告 関英雄

被告 信越郵政局長

訴訟代理人 成田信子 桜井卓哉 村上基次 吉田宗弘 ほか六名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四四年八月五日原告に対してなした停職二ケ月の懲戒処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の地位

原告は昭和二五年四月一五日上田郵便局に採用され、じ来貯金及び保険の内務事務に従事し、同三六年一月一日国家公務員である郵政事務官に任命され、今日に至つているものであるが、一方、この間同四二年七月には上田郵便局、丸子郵便局など長野県上田市及び小県郡内に所在する郵便局三五局に勤務する職員中の全逓信労働組合(以下、全逓という。)の組合員約三〇〇名をもつて組織する全逓長野地区本部上小支部の書記長に就任し、昭和四五年九月に右上小支部の支部長に就任するまでの間引続き書記長の地位にあつたものである。

2  本件懲戒処分の存在

被告(本件懲戒処分当時の名称は、長野郵政局長で、後に現名称である信越郵政局長に変更された。)は、昭和四四年八月五日原告に対し、別紙記載の処分の理由をもつて停職二ケ月の懲戒処分(以下、本件処分という。)をした。

3  審査請求の存在

これに対し、原告は昭和四四年九月三〇日人事院に対して審査請求をしたが、いまだに人事院の裁決がなされていない。

4  結論

本件処分には、次のような瑕疵があるので取消されるべきである。

(一) 原告は処分の理由記載の行為をしていない。

(二) 本件処分は不当労働行為である。すなわち、原告は全逓長野地区本部上小支部書記長の地位にあつて、上田郵便局における全逓の中心的活動家として従来活発な組合活動を行つてきたので、上田郵便局長玉井文四郎は右原告の組合活動を嫌悪し、右活動の故に、被告と意思相通じて原告を停職なる不利益処分に付したものであつて、かかる処分は労働組合法第七条第一号の禁ずるところである。

(三) 本件処分は、裁量の範囲を逸脱している。仮に原告に若干の国家公務員法違反の事実があり、これに対する処分が裁量によるものであつても、本件処分には裁量の範囲を超えた違法がある。

二  請求原因に対する認否

1ないし3は認め、4は争う。

三  被告の主張

1  事件の背景

(一) 四四年春期闘争(以下、春闘という。)の概要

全逓は、昭和四四年四月から五月にかけ、賃金引上げ、労働時間短縮等を要求して、春闘を展開していたが、その概要は次のとおりである。

(1) 昭和四四年四月一〇日、全逓は第二三回全国戦術委員会を開催し、春闘の山場における具体的戦術を協議し、

(イ) 四月一四日以降、全国的に労働基準法三六条に規定する時間外労働に関する協定(以下、三六協定という。)の締結を拒否すること。

(ロ) 四月一七日及び二四日には三時間ストを決行し、五月上旬には一日ストを構えること、

(ハ) 四月一五日から三日間休暇戦術を実施すること、

などの戦術を決定した。

(2) 右決定を受けて全逓本部は、四月一二日「四月一四日以降、三六協定の締結拒否戦術に突入するとともに、平常能率の徹底(実は能率低下)、業務規制闘争を強化し、ストライキを含むいかなる戦術にも即応し得る態勢を確立すること。」などを内容とする指令第二〇号を発出し、続いて四月一四日には、「四月一七日別途指定する拠点においては三時間の時限ストに突入し得る態勢を確立すること、四月一五日から三日間休暇戦術に突入すること。」などを内容とする指令第二一号を発出し、さらに四月一六日には、「四月一七日別途指定する局所において三時間の時限ストに突入すること。」などを内容とする指令第二二号を発出した。

(3) ところで、春闘において全逓が提出した諸要求については、中央において誠意をもつて団体交渉が行なわれていたものであり、特に春闘の主要求である賃金引上げ問題については数次にわたり交渉を重ね、全逓が四月一四日指令第二一号を発出した時点では、郵政省は「今年度は、客観情勢からみて、賃金を引上げるよう努力したい。」旨の意見を表明し、なお交渉継続中のものであつたのであり、全逓があえてストライキを含む種々の違法な戦術を行使することは、公共の利益を無視した許しがたい行為というべきであつた。

このため、四月一四日労働大臣は、全逓など公共企業体等労働組合協議会(以下、公労協という。)加盟の労働組合がストライキ宣言を発表したことに対し、関係者の反省と自重を要望する談話を発表し、また、郵政大臣は全逓に対し、組合が計画しているストライキ等の戦術を即刻中止するよう申入れるとともに、「万一違法な事態の発生をみた場合は責任者、指導者はもちろん、これに関与したすべての職員に対し、処分をもつて臨まざるを得ない。」との警告を行なつた。

しかしながら、全逓は、右に述べた状況及び警告を無視し、四月一五日から一七日までの三日間、全国で二、三〇〇人以上の組合員を休暇戦術に突入せしめ、また、四月一七日には全国二二の郵便局等において約三、二〇〇人の組合員を三時間の時限ストライキに参加せしめ、業務の正常運営を阻害した。

(4) 四月一二日全逓が、全賃金引下げ問題についての労使の自主交渉を打切り、公共企業体等労働委員会(以下、公労委という。)に対し、調停申請を行なつたので、同日以降賃金問題は、公労委の調停委員会の場で論議されることとなつたが、全逓は自ら調停申請を行ない、しかも、調停委員会が第一回目の事情聴取を行なつた当日である四月二二日に再度「四月二四日に半日ストライキに突入する。」ことなどを内容とする指令二三号を発出した。このため郵政大臣は翌二三日全逓に対し重ねてストライキを即刻中止するよう申入れるとともに、前回同様の警告を行なつたのであるが、全逓はこれらを無視し、原告らがストライキを指導した丸子郵便局を含む全国二〇の郵便局等において約二、一〇〇人の組合員を半日ストライキに参加せしめ、業務の正常運営を阻害した。

(5) 四月三〇日をもつて公労委の調停委員会は労使双方からの事情聴取を終り、翌五月一日から合議に入り調停案の作成に入つたが、全逓は公労協加盟の他組合とともに、右調停委員会に圧力をかけることを目的として、四月二八日には早くも「五月二日の全一日ストライキに突入するための体勢確立」などを内容とする指令第二五号を発出し、調停案の作成に入つた五月一日には「五月二日、全一日ストライキに突入する。」ことなどを内容とする指令第二六号を発出した。このため郵政大臣は、四月三〇日全逓に対し、今春闘三度目の警告を発し、重ねて五月二日のストライキの即刻中止を申入れるとともに前回及び前々回と同様の厳重な警告を行なつた。

ところで、右ストライキは五月一日からの公労委の調停委員会における調停が不調に終り、五月二日午前六時頃開かれた公労委総会において右調停事業を仲裁に移行する旨の決議がなされたのを契機として、五月二日早朝中止されたので結果的には業務阻害は生じなかつたが、全逓はその後も五月一五日に至るまで闘争態勢を持続させ、三六協定が締結され、労使関係が正常化したのは五月一六日であつた。

(ニ) 上田郵便局における四四年春闘に対する具体的対処

上田郵便局においては、平素から機会をとらえ違法なストライキには参加しないよう職員を説得してきたところであるが、前記(一)に述べたように全逓本部がストライキを含む違法な戦術の行使を指命した四月一四日には、上田郵便局長玉井文四郎(以下、玉井局長という。)が、全逓上小支部長石塚今朝男(以下、石塚支部長という。)に対し違法なストライキ等は絶対行なわないよう申入れるとともに、万一違法な事態が発生した場合は、責任者、指導者はもちろん参加者全員に対し厳正な処分をもつて対処する旨の警告を行ない、また同日前記(一)(3)の郵政大臣から全逓あての警告書を局内に大書掲示し、さらに職員家族に対しても職員が違法なストライキに参加しないよう説得方を要請する文書を送付するなどの措置を講じ、その後も四月二三日及び四月三〇日に郵政大臣が全逓に警告書を発した都度、玉井局長は全逓上小支部及び職員に対し、四月一四日とほぼ同様の措置を講じ、職員をストライキに突入せしめないよう配慮した。

しかるに全逓は四月二四日後記2で述べるとおり、全逓上小支部所属の組合員が勤務する丸子郵便局においてストライキを実施し、同支部所属の丸子郵便局勤務の職員二一名をストに参加せしめ、同局の業務の正常運行を阻害した。

2  原告の非違行為

(一) 丸子郵便局におけるストライキ関係

昭和四四年四月二四日、全逓中央本部の発出したストライキ実施指令二三号に基づき、全逓上小支部所属の組合員が勤務する長野県丸子郵便局において、半日ストライキが実施され、郵便物の配達不能をはじめとして同局業務の正常運営が著しく阻害されたが、その際、原告は、全逓上小支部書記長として右ストライキを指導する立場にあつたため、支部長および副支部長とともにストライキ実施当日の年次有給休暇を請求したうえ、前夜から丸子郵便局勤務の上小支部組合員らと近くの霊泉寺温泉玉屋旅館に赴いて行動を共にし、当日朝には丸子郵便局前及び同日のストライキの集会場である丸子町沢田公民館にそれぞれ第一陣として到着し、丸子郵便局前に全逓旗二本を立て、組合員らが乗用車に乗り沢田公民館に集まるのを誘導し、集会中は会場入口に立ちはだかり、就労命令伝達のために赴いて来た管理者等の入館を阻害し、ストライキ終了後就労する職員を誘導する等して、ストライキを指導したものである。

(二) 上田局構内における暴行関係

(1) 昭和四四年春闘における公労協のストライキ宣言、全逓の相次ぐストライキ及び休暇闘争突入指令発出に対抗し、郵政省は同年四月一四日以降、無集配特定局及び付属機関を除く全局所における組合の庁舎使用は一切認めないとの方針を決定し、この旨の指導を行なつた。

この指導に基づき、上田局においても、四月一四日以降、組合の庁舎使用は一切認めないこととし、特にメーデー当日の五月一日は全逓が翌二日に全一日ストライキという未だかつて例をみないような長時間のストライキ実施の構えをしていたときであつたので、全逓上小支部からの庁舎使用の申出には一切応じない方針で対処することとし、この旨を組合に通告した。

しかるに、石塚支部長らは右通告に関し「メーデーの際は、局構内で集合し、終了後も同局構内で解散する。」との反抗的言辞を発し、事実五月一日メーデー当日の朝には、上小支部は再度にわたる同局管理者の制止を無視して、メーデー参加の同支部組合員を局構内に集合させ、その場で組合員に鉢巻、腕章を着用させたうえ、隊伍を組んで出発させるなどして当局の措置に反抗した。

(2) 上田局管理者らは、右の状況から上小支部がメーデー終了後にその参加の組合員の集会を再び局構内で強行するものと判断したので、支部組合員が入局しはじめた正午過ぎころから組合の動向をみるため通用門付近で待機していたが、午後零時三〇分ころ石塚支部長、原告らを先頭にした約三〇名の集団が通用門にさしかかり、この集団の中には鉢巻着用者七、八名一腕章の着用者三、四名が含まれていた。

このため、通用門付近にいた上田局庶務会計課長藤森末雄(以下、藤森課長という。)は、石塚支部長に対し構内における集会は許可しないこと、及び鉢巻、腕章の着用者はこれを外して入構するよう申入れたところ、石塚支部長をはじめ、付近にいた原告ら組合員はいつせいに抗議の言葉を発しながら藤森課長につめ寄り、同課長を難詰しはじめた。このとき、石塚支部長のそばにいた原告は、「もう一度全員で鉢巻しなおし、隊列を組んで入るぞ。」などと叫んでいたが、そのうち「やるか。」と叫び、懸命に石塚支部長を説得していた藤森課長の胸のあたりを左手拳で体当りしながら、突き上げた。

(3) このあと原告は同局保険課長佐藤貞吉(以下、佐藤課長という。)の前に立ち「俺のところの課長に聞きたい。なぜ腕章をつけていけないんだ。理由を言つてみな。」と言いつつプラカードを両手に持ち、佐藤課長の前につき出し、いきなり「あぶないぞ。はたくぞ、どけ。」と大声で叫びつつ三、四名の組合員の先頭に立ち、手を握りあつて入構を制止していた同局貯金課長山崎三好(以下、山崎課長という。)と佐藤課長の間を実力で押し分け、入構しはじめた。このとき、山崎、佐藤両課長のうしろにいた同局郵便課長代理村田勝三郎(以下、村田課長代理という。)は、原告に対し「腕章をとつて下さい。」と言つたところ、原告は「あんたにとやかく言われることはない。」と言いながら、振り動かしていたプラカードの柄で村田課長代理の額を強くたたき、同課長代理の額に直径約二センチメートル位の瘤ができる傷害を与え、さらに同課長代理が「痛い。暴力はよせ。」と叫んだのにもかかわらず、原告はなおも同課長代理の右肩をプラカードの柄で二、三回こずくようにたたいた。

(4) これをみた同局郵便課長坂口利治は「乱暴するな。暴力ではないか。やめろ。」と原告を制止したところ、原告は同課長に対してもプラカードの枠で右腕先をたたき、同課長が「痛い。」と言つたのになお聞き入れず、再び同じ箇所をたたき、坂口課長の右腕先に約二センチメートル位の傷害を与えた。

3  原告に対する処分

国家公務員は国家全体の奉仕者として公共の利益のため勤務し、かつ職務の遂行にあたつては、全力をあげてこれに専念しなければならない。とりわけ郵政省は郵便、電信、電話、貯金、保険など国民の日常生活ときわめて密接な関係を有する公共的な業務を運営する企業官庁であるので、職員に対しては平素から法令をはじめ諸規程の遵守を強調し、職務上の非違の防止につとめ、従来から法令、規程に反するような行為に対しては、厳正に措置してきたところである。

しかるに、原告は前記2のごとく、公共企業体等労働関係法(以下、公労法という。)で禁止されている違法なストライキを指導し、業務の運営を阻害し、また管理者に対して暴行し、傷害を与える等の行為をしたものである。

これらの行為は国家公務員法(以下、国公法という。)九九条に違反し、同法八二条一号、三号に該当する。

以上の理由により、被告は原告に対し昭和四四年八月五日国公法八二条の規定にもとづき停職二ケ月の懲戒処分を行なつた。

4  現業国家公務員に対する不利益処分に不当労働行為該当の瑕疵事由の存在を主張してその処分の取消を求める場合には、人事院に対し審査請求をすることができないため、直ちにその取消を裁判上請求できるのであるが、その訴訟は、行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間内に提起して処分の取消を求めなければならない。

本件処分は昭和四四年八月五日になされ、本件取消訴訟は昭和四五年四月二八日に提起されたものであるから、右出訴期間を徒過していることは明らかであつて本件訴訟においては不当労働行為該当の瑕疵を取消事由として主張することは許されない。

四  被告の主張に対する認否

1  1(一)冒頭の事実、1(一)(1)、(2)の事実は認める。

2  1(一)(三)の事実のうち、全逓が四月一五日から一七日までの三日間、全国で二、三〇〇人以上の組合員を休暇戦術に突入せしめ、四月一七日には全国二二の郵便局等において約三、二〇〇人の組合員を三時間の時限ストライキに参加せしめたことは認め、その余の事実は否認する。

3  1(一)(4)の事実のうち、四月二一日全逓が公労委に対し調停申請を行なつたこと、同月二二日調停委員会が第一回目の事情聴取を行なつたこと、同日全逓が「四月二四日に半日ストライキに突入する。」ことなどを内容とする指令第二三号を発出し、四月二四日丸子郵便局を含む全国二〇の郵便局等において約二、一〇〇人の組合員を半日ストライキに参加せしめたことは認め、その余の事実は否認する。

4  1(一)(5)の事実は知らない。

5  1(二)の事実のうち全逓が四月二四日全逓上小支部所属の組合員が勤務する丸子郵便局においてストライキを実施し、同支部所属の丸子郵便局勤務の職員二一名をストライキに参加せしめたことは認め、その余の事実は知らない。

6  2(一)の事実のうち、全逓中央本部が全逓上小支部に所属し丸子郵便局に勤務する組合員に対し昭和四四年四月二四日半日のストライキを行なうよう指示したこと、右丸子郵便局勤務の組合員らが同日ストライキを行ない、勤務時間開始時に出勤せず、丸子町沢田公民館に集合し勤務を欠いたこと、右ストライキ当時原告が上小支部書記長の役職にあつたこと、ストライキ実施の前夜原告が霊泉寺温泉の玉屋旅館にいたこと、ストライキ当日の午前一〇時四〇分ころから同四五分ころまでの間原告が沢田公民館の玄関前にいたことは認め、その余の事実は否認する。

7  2(二)の事実のうち、原告がメーデー行進を終つて解散後他の組合員とともに上田局に戻り、午後〇時三〇分ころ同局通用門付近に至つたこと、そのころ同局通用門において上田局管理者らが待機していたこと、原告ら組合員が管理者らに対し抗議したこと、その後原告が入構しはじめたことは認め、その余の事実は否認する。

8  3、4は争う。

五  原告の反論

1  事件の背景

全逓は昭和四四年春、例年のとおり春闘を行なうことを決め、同年二月二二日から開催された第四四回中央委員会の決定にもとづき、郵政省に対し同年三月一日に一万三、〇〇〇円の賃上げ及び年度末手当の要求を、三月六日に合理化に対する統一基本要求を、それぞれ提出し、同月一五日までに回答することを求めた。しかるに郵政省は三月中旬に至つても何らの回答もせず、同月二四日に至つて賃金については「(一)同一年度内の再引上げはできない。(二)四月一日以降の賃上げについては民間賃金の動向をみたうえで回答する。」との不誠意極まりない回答をし、合理化に対する九項目の統一要求に対しても全く形式的な回答しか示さなかつた。

その後全逓は全力をあげて郵政省との交渉にあたつたが、四月一〇日に至つても交渉は一歩も前進せず、そのため四月一〇日開催の第二三回全国戦術委員会は郵政省の猛省を促すべく被告主張の如き戦術決定を行なつた。しかしなお郵政省の態度は変わらず、四月一五日に行なわれた団体交渉においても郵政省は賃金について「前回回答したとおり省としても賃金引上げの方向で努力はしているが、民間賃金の動向をみたうえでなければいえない。」としていわゆるゼロ回答に終始し、時間短縮、合理化についても三月二四日の回答から一歩も前進した態度を示さなかつた。その結果同日の時点で交渉は物別れに終つた。そこで全逓はやむをえず四月一六日指令第二二号を発出し四月一七日の三時間ストライキを行なつたのである。

しかしながら、郵政省は右ストライキ前日、賃金につきわずかに「五パーセントを下まわらない賃金の引上げ」を回答しただけで、右ストライキ後もそれ以上の回答を行なわず、時間短縮、合理化に関して全逓が要求した再回答についてはその日時を明示しないという態度に出たため、同月一九日に至つて自主交渉は決裂し、全逓は二一日公労委に対し調停申立を行なつた。そして翌二二日全逓は、調停の場において郵政省から十分な回答を出させるべく指令第二三号を発出して四月二四日のストライキを行なつたのである。

以上の状況に徴するならば、全逓はその傘下組合員の切実な要求をまとめ、労働組合として可能な限りの交渉努力をしているというべきであつて、これに対して郵政省は終始労働組合の交渉相手としての誠意ある態度を示していないことが明らかである。そうだとすれば、全逓が四月一七日および二四日の二度にわたり、ストライキを行なつたことは労働組合として当然のことなのである。

2  丸子郵便局におけるストライキ関係

(一) 本件ストライキは昭和四四年における賃金引上げ、勤務時間の短縮及び合理化問題、簡易郵便局法の一部改正案反対などを目的として全逓中央本部が実施したものであり、いわゆる春闘の一環をなしていた。従つて、原告がこれを企画し、あるいは決定するなどというものとは全く異なり、支部書記長たる原告の行為如何にかかわらず、遂行せられたものである。

すなわち、全逓は単一組織の労働組合であつて中央本部、地方本部、地区本部、支部、分会で構成されており、長野においては信越地方本部の下に長野地区本部が設置されていて、上小支部は長野地方本部の下にあつて、上田市、小県郡内の各郵便局勤務の組合員を構成員とし、丸子局の組合員は丸子分会をつくつているが、特定の闘争においてストライキを含む戦術を行使するかどうか、ストライキの規模、時期をどうするかなどストライキを企画し、実施する権限はすべて中央本部にあり、本件ストライキについても、全国戦術委員会において決定された戦術に従つて計画され、実施の日時及び拠点局所の決定などその大綱の一部を中央本部が決定しているのであり、拠点各所における具体的戦術についてもあらかじめ本部において決定され、支部役員はこれに参与する余地がなかつたのである。

本件ストライキに関する中央本部の指令は、四月二三日に発出されたところの指令第二三号であり、拠点局所の指定はこれを別途に中央本部執行委員によつて本部から長野にもたらされたが、いずれも第一次的に長野地区本部に到達し、地区本部が直接に丸子分会に伝達している。しかも指令中には「ストライキ拠点局の支部執行権はストライキ終了まで停止する。」との条項があり、この点からしても支部役員の指導は全く期待されていないのであつて、現実にも原告は指令伝達にさえ関与していない。

(二) 仮に原告の四月二四日のストライキへの関与行為が公労法一七条一項後段違反となるとしても、もともと国公法上の懲戒規定は労働組合の集団的な行為としてのストライキに対して適用することができないものである。

そもそも国公法上の懲戒規定は個人の非違に対する懲罰を目的として定立されている。ところが労働組合のストライキは決して個人の行為ではなく、個人の行為に分解することができない。すなわち、原告を含む公労法適用の労働者には、労働基本権が保障されており、団結権、団体交渉権を実定法上認められているのであるから、争議権を含む団体行動権についても認められるべきである。かかる労働者の結成した労働組合がその保障されるべき団体行動権を行使する限り、その行為に関して適用する制裁法は集団法としての労働法以外のものではありえない。従つて公労法一七条一項に該当する行為があるとすれば、雇用主たる政府がこれに対してとりうる措置は同法一八条所定の解雇しかありえない。

(三) 憲法二八条は勤労者の団結権、団体交渉権、団体行動権を保障している。国家公務員もまた憲法二八条の勤労者に含まれる。その結果、公労法の適用のある郵政労働者もまた労働基本権を保障されており、その団体公動権の行使は憲法二八条によつて可能な限りの保護が与えられるべきである。事実最高裁判所の数次の判決は非現業国家公務員、現業国家公務員、地方公務員を問わず、その団体行動権は尊重されるべきことを判示し、刑事裁判に関する限り、国公法、地方公務員法(以下、地公法という。)上争議行為を禁ずる規定があるにもかかわらず、特に違法性の強い争議行為以外のものについては、刑事罰を科しえないことを明らかにしている。

ところで、労働基本権の保障は、刑事制裁を受けないという保障のほかに民事上の損害賠償責任の追及を受けないという保障ならびに解雇懲戒等の不利益な処分を受けないという保障を包含する。それゆえに、国民生活全体の利益の保障という見地からの制約を殆んど顧慮する必要のない民間企業の労働者は、労働基本権保障の当然の帰結として刑事免責の他に労働組合法八条による民事免責を受け得、同時に正当な労働組合活動を行なつたことを理由とする解雇、懲戒は無効となるという保護を受け得るのである。公労法適用の労働者については、その労働基本権が民間企業の労働者と全く同様に保障されているということはできないかもしれない。しかしながら、労働基本権の制約は、国民生活全体の利益の保障という見地からの内在的制約の限度にとどまるべきであり、暴力の行使等を伴なうとか、はなはだしく長期にわたるとかの理由で制約を必要とする場合を除いて、その余の労働基本権の行使は保障されるべき対象でなければならない。

以上によれば、仮に原告が四月二四日のストライキに関与し、当該行為が形式的には公労法一七条に該当するとしても、右行為は明らかに労働者の団体行動権の行使であり、憲法上保障の対象となつている行為であつて懲戒事由にあたる行為とみることはできない。

3  上田局構内における暴行関係

(一) 昭和四四年五月一日午後〇時三〇分ころ、原告はメーデー行進を終つて他の上小支部の組合員とともに、上田郵便局構内にある上小支部組合事務所に赴こうとして同局通用門付近に至つたところ、平常は大きく開かれて守衛すら全く看守していない通用門が鉄扉を殆んど閉じており、その鉄扉のわずかに開いた空隙に坂口郵便課長をはじめとする約六、七名の管理者が立ちはだかり阻止線をはつていた。原告ら組合員は、いずれも上田局の職員であり、当日は勤務についていなかつたものの日常当該通用門から局構内に出入りしていたものであつたから、管理者に対し進行させるよう要求した。ところが管理者らは入構を全て拒否はしなかつたが、この入構に際しては鉢巻、腕章をとるべく組合員に求めたものである。組合員らは局中庭を経て組合事務所に赴くのには鉢巻、腕章をはずす必要はないとして管理者らと問答となつたが、結局入構することを得たものである。ところで上田局管理者は局員組合員が何ら不法の目的をもたず局通用門内に入ることまでを禁ずることはできない。局内に組合事務所も存在し、日ごろ局員、組合員は自由にここを出入りしているのであり、このことは単に局が出入を黙認している状態とは異なつて組合員らが慣行上不法な目的をもつてするのでない限り自由に出入する権利を有することを意味し、該権利は労働組合の権利として管理者らもこれを侵すことのできないものである。そしてこの日組合員は局内はもとより局中庭等の局施設において集会を開催する予定はなく、管理者らもこれを十分知つていた。それにもかかわらず管理者らは組合員らの入構を阻止する挙に出たのであり、組合員らが入構することが権利の行使である以上、組合員らの入構を阻止していた右管理者らを排除したとしても、それは正当な行為である。そしてその際原告も他の組合員とともに多少の抗議を行なつたものであるが、原告は当時上小支部の書記長の地位にあつたから、組合の行動を不当に制約しようとする管理者に対し組合の立場上から抗議、交渉することは、その職責上当然のことである。

(二) 原告は管理者らに対して暴行を加えたことはない。もともと当日原告には暴力を用いてまで入構すべき必要性などなかつたのである。暴力を振うにはそれなりの必然性があるけれども、この場合ただ入構するというのであれば、空いている部分から出入りし得たのであり、組合員らは多数であつたから意図的に暴力を振わずとも力で押すだけで入構できたのである。ここでは示威のみが必要であつたのであつて、原告は背後に多数の組合員の監視を受けていて組合員に対する示威としても正面からの入構をはかつたというだけであり、暴力を振つたのでは示威の効果を減殺するから、むしろかかる行為に出ない必要性があつたというべきである。それゆえに原告はプラカードを上に掲げ、単独ではなくスクラムを組み、他の組合員に背後から押されるような状態で威風堂々と入構したのである。管理者はこれを阻止しようと試みたので、そのため原告の身体もしくはプラカードに突き当たる等の行為に出たのかもしれないが、原告の方からプラカードを振りまわして管理者を打つなどの必要がなかつたのである。もし仮に管理者らのうちに傷害を負つたものがあつたとすれば、自ら突き当たつたことによる自傷行為というほかはない。いずれにしても原告が意図的に暴行を行なつた事実はない。

第三証拠<省略>

理由

第一原告の地位

原告が昭和二五年四月一五日上田郵便局に採用され、じ来貯金及び保険の内務事務に従事し、同三六年一月一日国家公務員である郵政事務官に任命され今日に至つていること、この間同四二年七月には上田郵便局丸子郵便局など長野県上田市及び小県郡内に所在する郵便局三五局に勤務する職員中の全逓組合員約三〇〇名をもつて組織する全逓上小支部の書記長に就任し、同四五年九月に右上小支部長に就任するまでの間引続き書記長の地位にあつたことは、当事者間に争いがない。

第二本件処分の存在

被告が本件処分をしたことは当事者間に争いがない。

第三審査請求の存在

原告が昭和四四年九月三〇日人事院に対して審査請求をしたが、いまだに人事院の裁決がなされていないことは当事者間に争いがない。

第四本件処分の適法性

一  処分理由の有無

1  丸子郵便局におけるストライキ関係

(一) ストライキ

昭和四四年四月二四日全逓中央本部の発出したストライキ実施指令に基づき、全逓上小支部所属の組合員が勤務する長野県丸子郵便局において半日ストライキが実施されたことは当事者間に争いがない。

(二) 業務阻害

<証拠省略>によれば、右四月二四日の半日ストライキの結果、当日一号便で配達すべき郵便物約二、五〇〇通が午前中に配達されなかつたこと、そしてこれらの郵便物が午後配達のために持出されたが、うち約一、二〇〇通は配達できなかつたこと、また当日二号便で配達すべき郵便物約八〇〇通も全く配達できず、合計二、〇〇〇通の配達が翌日に持ちこされ、郵便物の配達が正常に復したのが四月二七日であつたこと、貯金、保険の募集事務はストライキ当日の午前中全く停止されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上によれば、右ストライキの結果、丸子郵便局における業務の正常な運営が阻害されたものということができる。

(三) 原告の行為

(1) <証拠省略>を総合すれば、原告は昭和四四年春闘時において、全逓中央本部の発出した四月二四日の半日ストライキ突入の指令二三号を同月二三日ころ了知するまでの間、上小支部書記長として、同支部長、同副支部長とともに、同支部内全般においていつでもストライキを行なうことができるよう各職場における組織作りなどして体勢をととのえてきたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(2) <証拠省略>によれば、原告は上小支部長、同副支部長とともに、年次有給休暇を請求して、当日は勤務をしなかつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(3) <証拠省略>によれば、原告はストライキ前日の夕方から定例の支部執行委員会を開き、春闘の情勢全般について議論し、同委員会終了後、夜一〇時三〇分ころ霊泉寺温泉の玉屋旅館に到着し、当夜は、丸子郵便局組合員らとともに同旅館に宿泊したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(4) <証拠省略>によれば、原告はストライキ当日、ストライキの際の集会場である丸子町沢田公民館に第一陣として到着したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお被告は、原告が当日午前七時ころ石塚上小支部長、川口同副支部長とともに丸子郵便局に第一陣として到着し、同局前に全逓旗二本を立てた旨主張し、証人内田豊はこれに沿う供述をしているけれども、右供述は証人青木三郎の証言、原告本人尋問の結果と対比したとき、あいまいであつて採用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(5) <証拠省略>によれば、原告はストライキ当日午前九時三〇分ころ、深沢長野地区本部執行委員とともに、玉屋旅館から来た丸子郵便局組合員の乗つている自動車を沢田公民館方面に誘導したことが認められ、右認定に反する<証拠省略>は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(6) ストライキ当日午前一〇時四〇分ころから同四五分ころまでの間、原告が沢田公民館の玄関前にいたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に加えて、<証拠省略>を総合すれば、ストライキ当日午前一〇時四〇分ころから同四五分ころまでの間、沢田公民館の玄関前に石塚上小支部長、川口同副支部長、深沢長野地区本部執行委員、清水長野地区本部副委員長、勝家長野地区本部執行委員、佐野長野地区本部書記とともに、スクラムを組んで立ちはだかり、就労命令を伝達するために赴いて来た管理者の入館を阻害したことを認めることができ、右認定に反する原告の供述部分は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(7) <証拠省略>によれば、原告はストライキ終了後、丸子郵便局組合員佐々木健司を誘導して同局に就労させたことが認められ、右認定に反する原告の供述は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(8) 以上(1)ないし(7)に認定した各事実は、要するに、原告が指令二三号による丸子郵便局における半日ストライキを指導し、多数の組合員をこれに参加させ、そのストライキの効果をより高めようとの意図のもとになした一連の行動であるということができる。

なお原告は、本件ストライキの際、支部執行権が停止されていたことを理由に、原告がストライキを指導するという行為は存在しない旨主張するけれども、支部執行権が停止されていたとしても、前認定を左右するものとは考えられないから、右主張は失当である。

2  上田郵便局構内における暴行関係

原告が、メーデー行進を終つて解散後、他の組合員とともに上田郵便局に至り、午後〇時三〇分ころ同局通用門付近に至つたこと、そのころ同局通用門において同局管理者らが待機していたこと、原告ら組合員が管理者らに対して抗議したこと、その後原告が入構しはじめたことは当事者間に争いがない。

右争いのない事実に加えて、<証拠省略>を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一) 昭和四四年五月一日のメーデー当日、上田郵便局管理者らは、正午ころから同局通用門付近で待機していたが、午後〇時三〇分ころ、石塚支部長、原告らを先頭とする約三〇名の集団が通用門にさしかかつた。そしてこの集団のなかには腕章着用者三、四名、鉢巻着用者七、八名がいた。

(二) このため通用門付近にいた藤森課長は、石塚支部長に対し、鉢巻、腕章の着用者はこれをはずして入構するよう申入れた、ところ、石塚支部長をはじめ付近にいた原告ら組合員は、いつせいに抗議の言葉を発しながら、藤森課長につめ寄り、同課長を難詰しはじめた。

(三) このとき、石塚支部長のそばにいた原告は「もう一度全員で鉢巻しなおし、隊を組んで入るぞ。」などと叫んでいたが、そのうち「何をするんだ。やるか。」と叫び、藤森課長の胸のあたりを左手で強く突いた。

(四) そして原告は、佐藤課長の前に立ち、「俺のところの課長に聞きたい。なぜ腕章をつけてはいけないんだ。理由を聞かせろ。」と言つたあと、プラカードを両手に持つて佐藤課長の前へ突き出し、「あぶないぞ。たたくぞ。」と大声で叫びつつ三、四名の組合員の先頭に立ち、入構を制止していた山崎課長と佐藤課長の間を実力で押し分け入構しはじめた。

(五) このとき、山崎、佐藤両課長のうしろにいた村田課長代理は原告に対し、「腕章をとつてください。」と言つたところ、原告は「あんたにとやかく言われることはない。」と言いながら、振り動かしたプラカードの柄で村田課長代理の額を強くたたき、同課長代理の額に全治二、三日間を要する前額部打撲の傷害を負わせ、同課長代理が「痛い、暴力はよせ。」と叫んだにもかかわらず、原告はなおも同課長代理の右肩をプラカードの柄で二、三回こずくようにたたいた。

(六) これをみた坂口課長は「乱暴するな。やめろ。」と原告を制止したにもかかわらず、原告はさらに同課長に対してもプラカードの枠で右腕先をたたき、同課長が「痛い。」と言つたのになお聞き入れず、再び同じ箇所をたたき、同課長め右腕先に全治二、三日間を要する右前肘下端外側打撲症の傷害を負わせた。

以上のとおり認められ、右認定に反する<証拠省略>は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  非違行為該当性

1  右一1(三)で認定した原告の一連の行動は、公労法一七条一項後段にいう「同盟罷業を共謀し、そそのかし、若しくはあおつて、」に該当すると否とを問わず、いやしくも公労法一七条で禁止されているストライキの実施に積極的に関与した行為であり、かつそのストライキのため業務が阻害されたのであるから、非違行為であることを否定し得ないし、また右一2で認定した原告の管理者に対して暴行を加え傷害を負わせた行為が非違行為に当ることは明らかである。

そして原告のこれらの行為は、公務員として、官職の信用を傷つけるものであり、また国民全体の奉仕者としてふさわしくない非行であるから、国公法九九条に違反し、同法八二条一、三号に該当するものというべきである。

2  ところで原告は前記一の各行為について、次のとおりその非違行為性を争つているので、判断する。

(一) 原告は、争議行為は憲法二八条に定める団体行動権の行使であるから違法ではなく、従つてまた原告の行為も違法ではなく、処分の対象とされるべきではない旨主張する。

しかしながら、郵政職員はその給与の財源が主として税収によつてまかなわれ、その勤務条件が民主的手続に従い立法府によつて決定されなければならないという特殊な地位に置かれているので、争議行為により適正な勤務条件を決定しうるような勤務上の関係にはなく、かつその職務は公共性を有するので、全勤労者を含めた国民全体の共同利益の保障という見地から、その争議行為を禁止しても憲法二八条に違反するものとはいえないと解される(昭和四四年(あ)第二五七一号事件昭和五二年五月四日最高裁判所大法廷判決参照)から、原告の主張は理由がない。

(二) 原告は、昭和四四年春闘における郵政省の全逓に対する交渉態度が不誠実であつたため、やむをえず本件ストライキに至つたものであつて、従つてまた原告の行為もやむをえないものであつて処分の対象とされるべきではない旨主張する。

なるほど、<証拠省略>中には、郵政省の全逓に対する交渉態度が不誠実であつたため、やむをえず本件ストライキに至つたかのごとき部分がうかがわれるけれども、右部分は弁論の全趣旨に照らしてただちに採用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。よつて、原告の主張は理由がない。

(三) 原告は、もともと国公法上の懲戒規定は労働組合の集団的な行為としての争議行為に対しては適用できず、公労法一七条に違反する行為があつた場合、当該職員に対してとられるべき措置は同法一八条の解雇しかありえない旨主張する。

なるほど、争議行為はほんらい集団的労働関係たる性格を有し、また公労法一七条の規定に違反した職員に対しては、同法一八条は解雇されるものとする旨定めるのみであるが、このことから直ちにかかる争議行為や指導行為をした職員に対しては国公法八二条の適用が排除されると解すべきではなく、該行為が国公法八二条の要件をみたす場合、当局はその態様、程度に応じて懲戒処分その他の措置をすることができると解するのが相当である。よつて、原告の主張は採用できない。

(四) 原告は、上小支部組合員が組合事務所の存する上田郵便局構内に出入りすることは組合員としての権利であり、右組合員の入構を阻もうとする管理者を組合員が排除することは正当な行為であるから、右は何ら処分の対象とはなりえない旨主張する。

そこで検討すると、<証拠省略>によれば、昭和四四年春闘においてはストライキが反復して行なわれ、五月一日当時はいまだ春闘が終了せず(例年はすでに終了していた。)、とりわけ五月二日には全一日ストライキが予定されていたこと、全逓上小支部が四月末、上田郵便局管理者に対して五月一日のメーデーの当日に同局構内を使用したい旨申し入れたが、同局管理者はこれを許可しなかつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そうだとすれば、五月一日当時、あるいは翌二日に全一日のストライキが行なわれるかもしれないという状況にあつたのであるから、上田郵便局庁舎がその本来の設置目的以外に利用されるおそれは十分あつたものと解されるので、同局管理者としては、庁舎管理権の行使として、五月一日の庁舎内での組合員による組合活動としての鉢巻、腕章の着用、集会を許可しなかつたのは、やむをえない措置として容認できる。

また<証拠省略>によれば、五月一日朝、藤森課長が石塚上小支部長に対して構内における鉢巻、腕章の着用、集会を許可しない旨通告したにもかかわらず、石塚支部長はこれを聞き入れず、上小支部組合員数十名全員が局構内で鉢巻を着用し隊列を組んでメーデー会場に向けて出発したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。従つて上田郵便局管理者としては、組合員がメーデー行進終了後再び鉢巻、腕章を着用したまま同構内に入り、または構内において集会を行なうおそれがあるものと判断することはあながち不当ということはできず、前記一2に認定したように上田局管理者が、同局構内において鉢巻、腕章が着用され、集会が行なわれることを制止するため、同局通用門付近に待機したことも格別非難することもできない。

さらに同局管理者が鉢巻、腕章の着用者に対してこれをはずすよう申入れをし、あるいはこれを聞きいれない者の入構を阻もうとした行為(鉢巻、腕章等を着用していない組合員の入構は何ら阻止していない。)は同局の前記措置を実効あらしめるためのやむをえないものであつて、その方法、態様においても特段違法であつたと認めるに足りる証拠もない。

そうだとすれば、管理者の右措置は相当であるから、結局原告の主張は理由がない。

三  裁量の逸脱

原告は、本件処分が原告の非違行為に対して重すぎるから、本件処分は裁量を誤まつたものである旨主張するので判断する。

まず前記一1の丸子郵便局における違法なストライキに積極的に関与した行為については、右ストライキのもたらした同局における業務の阻害も決して軽微ということができず、原告の責任は軽くないというべきである。次に前記一2の上田郵便局構内における管理者に対する暴行については、その手段がプラカードによるものであり、かつ管理者二名が傷害を負つたものであつて、悪質であるといわなければならない。さらに、<証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、石塚上小支部長と川口同副支部長は、前記一1の違法なストライキに多数の組合員を参加せしめる等の行為をなしたことに対して、それぞれ減給一年間俸給の月額の一〇分の一、減給一〇月間俸給の月額の一〇分の一の各処分を受けていることが認められる。

以上認定の原告の非違行為の性質、態様、程度及びその他諸般の事情を考慮すれば、本件処分は右非違行為に対して相当であつて、重すぎるということはないのであるから、懲戒権の行使に当り裁量の範囲を逸脱しているものとは考えられない。よつて、原告の主張は理由がない。

四  不当労働行為の存否

原告は、被告が原告の組合活動を嫌悪し、かつそのことを唯一または主たる動機として本件処分に及んだものであつて、本件処分は不当労働行為である旨主張するので、判断する。

なるほど被告主張のように現業国家公務員に対する不利益処分に不当労働行為該当の瑕疵があることを主張してその取消を求める場合には、人事院に対し審査請求をすることができないため、直ちにその取消を裁判所に請求できるのであつて、その訴訟は行政事件訴訟法第一四条の期間内に提起しなければならない、従つて、右出訴期間を徒過した場合には、他の瑕疵事由の存在を理由とする取消訴訟において、不当労働行為該当の瑕疵事由の存在をも併せて主張することも許されない、との見解がある。これに対し、不当労働行為以外の瑕疵事由の存在を理由として人事院に対する審査請求を経て適法に提起された本件処分取消訴訟においては、前記の出訴期間の経過後に不当労働行為該当の瑕疵事由をあらたに主張することが許される、すなわち、これらの瑕疵事由は、いずれも右処分取消の請求を理由あらしめるための攻撃方法に過ぎず、いずれの瑕疵を主張しても訴訟物を異にするものでないのであるから、かかる場合には不当労働行為の瑕疵事由をも主張することは許される、との見解もある。

このような不当労働行為該当の瑕疵事由の主張の許否をめぐつての二つの見解について、その是非の判断はさておき、本件処分には不当労働行為の瑕疵事由が存在するかどうかについて検討してみると、当時玉井局長が被告と意思相通じて原告が活発な組合運動をした故をもつて本件処分をなしたこと、若しくは量定の重い停職二か月という不利益処分をなしたとの事実を認め得る証拠が存在しないばかりではなく、本件処分は原告に非違行為があつた故になされたものであつて、これに対する懲戒処分は相当であり、裁量の範囲も逸脱していないことは前説示のとおりであるところからしても、本件処分は被告の不当労働行為意思が決定動機となつてなされたものと推断することも困難である。従つて、本件処分には不当労働行為該当の瑕疵事由の存在を認めることはできないから、結局原告の右主張は採用し得ない。

第五結論

以上のとおりであるから、被告が原告に対してなした本件処分は適法であつて、これには原告主張のような瑕疵が存しないから、その取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川名秀雄 山下和明 川島利夫)

処分の理由

原告は上田郵便局勤務のものであるが、全逓信労働組合上小支部書記長の役職に従事中のところ、同支部書記長として、同組合中央本部の発出した違法なストライキ実施指令にもとづき、昭和四四年四月二四日丸子郵便局において半日ストライキを実施し、多数の組合員をこれに参加せしめる等し、また同年五月一日上田郵便局西側通用門付近において同局管理者の制止を無視して同局構内への入構を強行し、これを阻止しようとした同局管理者二名に対し、プラカードをもつて暴行を加え、両名にそれぞれ全治二日間ないし三日間を要する傷害を与える等したものである。

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